私が初めてバーニャ・カウダをピエモンテで食べたのは今から3年前のこと。
名前は聞いたことがあるけれどそれが一体どういうものなのかよく知らなかった(日本では数年前にブームになったようなのでおそらく日本の皆さんの方がバーニャカウダについて詳しいかもしれない)。けれどその年から“冬になると食べたくなるものリスト”に必ず入ってくるようになった。
そんなバーニャ・カウダを味わうために訪れたイタリアはピエモンテ州、アスティ(Asti)、そしてカスタニョーレ・モンフェラート(Castagnole Monferrato)への日帰り旅について少し書いてみようと思う。
今回は観光はゼロ、グルメリポートのみの旅行記となることを前もってお許しいただきたい。
バーニャ・カウダとは?
バーニャ・カウダとはイタリアのピエモンテ州の冬の代表的な郷土料理でたっぷりのニンニクとオリーブオイル、そしてアンチョビを加えたソースのこと。それを小さなフォンデュ鍋のようなもので温めながら野菜などにつけて食べる。一人前にニンニク丸ごと一つ(1片ではない)と言われるほどたっぷり入っているのでなかなか強烈な郷土料理だ。
なぜ海のないピエモンテでアンチョビかと言えば、中世の時代に塩街道と呼ばれるリグーリアの海からの街道を通ってやってくる商人たちがイワシを塩漬けにして運んできたことに由来する。バーニャ・カウダ(bagna cauda)とはピエモンテの方言で “温かいソース” と言う意味。この週末にアスティを中心に “バーニャ・カウダday” というイベントが開催されていたのでミラノから日帰りで訪れてみた。
お楽しみのランチ
さて、あらかじめ予約していたレストランに到着すると、テーブルにこのバーニャ・カウダDayの小冊子が置いてある。パラパラとめくってみると何やらこのイベントに参加している各レストランの紹介ページに信号のマークがある。見ると赤信号は “神のみぞ知る”、黄信号には “伝統的なバーニャ・カウダに反逆するもの”、緑信号には “無神論者、ニンニク無し” と書いてある。そう、つまりニンニクのレベルをユニークに表現してあるのだ。
冊子を読んでバーニャ・カウダの歴史などを学んでいると、さぁ、お待ちかねの本場のバーニャ・カウダがやってきた。
合わせるワインはバルベーラ(barbera)かルケ(ruchè)かとサービスの人に聞かれたので反射的にバルベーラと答える私。特にこだわりなどなく、何となくバーニャ・カウダにはバルベーラかな、と思っただけだ。夫はこのレストランがあるカスタニョーレ・モンフェラートの地ワイン、ルケにしたそうだったけど。でもどちらのワインもこのお店にくる途中で見つけたワイナリーで購入していたのでまぁ家でゆっくりと楽しもう。
運ばれてきたバーニャ・カウダセットに卵がのっていた。これは最後にお皿に残ったソースと合わせてスクランブルエッグのようにして食べるためのもの。この食べ方はピエモンテ出身の友人、カルロから教えてもらっていたのでこの卵をみて私と夫は「これか!」とにんまり。
盛りだくさんの野菜と共に生食用の薄切り肉があった。これがとっても美味しかった。ピエモンテの牛肉はイタリアでも美味しい牛肉として知られ、ブランドのようになっている。赤身肉だけれどとても柔らかくて肉の味自体もとても良い。その他には生野菜とともに酢漬けにしたパプリカなどもあった。さっぱりとしてなるほどこれもバーニャ・カウダソースと合う。
1点だけ残念だったのがバーニャ・カウダにはお決まりのピエモンテの野菜、カルド・ゴッボ(カルドン)が無かったこと。他のテーブルにはあったのでおそらくこの日の分が無くなってしまったのだろう。(カルド・ゴッボについてはこちら)
なかなかボリュームがあり食いしん坊の私達でも食べきれなかった。でも最後はしっかりカルロに教えてもらったようにスクランブルエッグで締めて大満足の私達だった。
アスティで美味しいもの探し
アスティと聞いてワインを思い浮かべる人は多いかもしれない。もちろん美味しワインも有名だけれど美食の宝庫、ピエモンテはワインだけでは語れない。レストランの前にアスティ市内で特産物を集めたメルカート(マーケット)が開かれていたので覗いてみた。
ピエモンテと言えばヘーゼルナッツ
まずはピエモンテに来るたびに買う、ノチョーレ(ヘーゼルナッツ)のクリーム。砂糖入りのものやチョコレートと合わせたものはよく見かけるのだけれどヘーゼルナッツ100%のものはピエモンテ以外ではなかなか見かけない。お菓子に使ったり、そのままパンに塗って食べても美味しい。バーニャ・カウダの冊子に書いてあったけれど昔はピエモンテではオリーブオイルではなくヘーゼルナッツやクルミのオイルを使っていたそうだ。バーニャ・カウダにオリーブオイルを使うようになったのは1800年代でエキストラバージンオリーブオイルに代わってきたのはなんと1900年代の終わり頃からだそうだ。
隠れた名産品 クニャ
それともう一つ、クニャ(cugnà)というジャム。モストコットという葡萄の濃縮液にヘーゼルナッツやフルーツを加えて煮詰めたジャム。モストコットの甘味を使っているので砂糖はほどんど入っていない。これも味見させてもらいとても美味しかったので一つ購入。
そしてもちろん瓶詰のバーニャ・カウダも。作り手の話では牛乳で薄めたり、もしくは生クリームやバターと混ぜて食べても美味しいとのこと。こうして生産者と直接話ができるのがメルカートの醍醐味であり楽しみでもある。
もちろんワインも
レストランへ行く途中で見つけたカスタニョーレ・モンフェラートのワイナリーへ立ち寄ってみた。アスティ周辺の有名品種、バルベーラはもちろんのこと、先ほども少し書いたルケ(ruchè)というワインを見つけた。話をきくと、このルケという品種、昔はこの辺りでよく栽培されていたそうだけれど近年忘れ去られそうになっていたところを再び普及させようと取り組んでいるそうだ。スタンダードな品種にはない独特の香りがいい。私はソムリエでもワイン通でもないのでこの香りをどう表現していいのかわからない。なのでピエモンテのモンフェラート周辺を訪れた際はぜひご自身で試してみて欲しい。
その他、この地方の野菜なども買って大満足でミラノへと帰っていった。
あとがき
美味しいものがたくさんのピエモンテ、この日帰り旅行記を書きながら2016年のピエモンテグルメ旅についてまだ書いていないことを思い出した。
それについてはまた時間を見つけて書いてみたいと思うのでもうしばらくお待ちいただきたい。
訪れる度に美味しい出会いのあるピエモンテ。次に訪れるときはどんな美食旅となるのだろうかと考えると、さぁ、もう次回が待ちきれなくなってきた!