夏の暑さも和らぎ気持ちのいい気候になってきた9月の半ば、パルマ近郊でポルチーニ茸のお祭りがあると聞いたので行ってきた。
場所はボルゴターロ(Borgotaro)。
イタリアのエミリア・ロマーニャ州、パルマから約60㎞ほどの場所に位置するポルチーニの名産地。
ここはヨーロッパで唯一IGP(特定保護地域産物)指定されている一級品のポルチーニ茸が採れることで有名。
ボルゴターロのポルチーニ茸について
ボルゴターロのポルチーニは雑味の無いクリアでバランスの取れた味と香りが特徴。
山の高度によって栗の木(低)、ナラの木(低)、ブナの木(高)、モミの木(高)などの植物分布が変化し、そのため以下で紹介するような様々な種類のポルチーニが採れることもこのボルゴターロの特徴の一つとなっている。
このボルゴターロのポルチーニは1700年代よりすでに高品質なものとしてよく知られていたそうだ。
そのためポルチーニの過剰な採取を防ぐために1960年代よりポルチーニ茸の生育地域への立ち入りを制限したりしてその保護に努めてきた歴史がある。
そうした品質の高さや保護努力のおかげで90年代にはIGP(保護生産地産物)の認定を受けることとなった。
ボルゴターロのポルチーニの種類
ひと口にポルチーニ茸と言っても実は一種類だけではなく、先ほど少し書いたようにこのボルゴターロのポルチーニ茸は4種類に分けられる。
以下ではボルゴターロ周辺での呼び名、方言でこの4種を紹介します。
※ただお祭りで販売されているものは、生、乾燥タイプともに特にこの4種類は分けられてはいませんでした。栗の木周辺に生える分は香りがよいとされることから、カスターニャ(castagna/栗)の表示で区別しているお店はありました。
-①ロッソ(rosso/赤)、フンゴ・デル・カルド(fungo del caldo/暑い時期のキノコ)【学名 Boletus aestivalis】
5-9月に採れる、栗の木の周辺に生えるタイプ。他の種類に比べて柔らかい食感が特徴。
-②モーロ(moro/黒)【学名 Boletus pinicola Vittadini 】
6月頃より採れる夏ものは、栗の木の周辺に生える。秋に採れるものはブナの森やモミの木の近くで生える。繊細でほんの少し甘味があるのが特徴。
-③マニャン(magnan)【学名 Boletus aereus Bulliard ex Fries】
7-9月に採れるナラの木、栗の木周辺に生えるタイプ。多種に比べると香り、味ともにはっきりとしているのが特徴。
-④フンゴ・デル・フレッド(fungo del freddo/寒い時期のキノコ)【学名 Boletus edulis Bulliard ex Fries】
9月の終わりから初雪のころまで採れるタイプ。ブナ、栗、モミの木の森で生える。繊細な味と香りが特徴。
乾燥ポルチーニのクラス分け
乾燥ポルチーニについてもこのボルゴターロでは
- extra (最上級)
- speciali (上級)
- commerciale (一般)
とクラス分けされている。
そしてその中でもポルチーニの傘と足を分けて販売している場合は傘の部分の方がより値段が高い。やはり実際に食べると味も食感も傘の方が上と言えるだろう。
ただ何件かのお店の人に値段の差はどういった違いなのかと話を聞くと、
「味の差というよりは傷の少なさや色の良さの違い」
と皆さん口をそろえて言っていたのでcommerciale(一般)でもリゾットなどにするなら十分。お土産にするならextra(最上級)やspeciali(上級)と分けるのがいいかもしれない。
ポルチーニ産地でのポルチーニグルメ
そしてお待ちかねのお昼の時間。
今回もいつものように夫がさらっと美味しいレストランをポルチーニを買う際にお店の人に調査していたのでそちらへ向かってみた。
ポルチーニのプロが勧める店ならやはり期待は高まる。
ここで食べたもので一番感動したのが前菜の “ポルチーニのカルパッチョ”。
ポルチーニを生で食べたことが無かった私達はその味、香り、食感、全てに感動してしまった。
カルパッチョにするので当然ポルチーニは新鮮なものでなければいけない。
このフレッシュなポルチーニをオリーブオイル、レモン、塩、ほんの少しの黒コショウでマリネしたシンプル極まりないこのカルパッチョ。
香りは穏やかで繊細。
決して嫌味な主張はしない。
けれどしっかりとポルチーニの味が口の中で広がるこの一品はこのボルゴターロのポルチーニを味わうのに最高の調理方法かもしれない。
その他に特徴的だったのはプリモに頼んだテスタローリ(testaroli)というパスタ。
店員さんに聞いてみるとリグーリア、トスカーナ、エミリアロマーニャの3州の州境にあるこの地域独特のパスタだそうだ。作り方もおもしろく、パスタ生地をテラコッタのお皿に敷き詰めてオーブンで焼き、それを大きめにカットしたものを茹でるそう。
これももちろんポルチーニのソースで頂く。
そしてもう一つのプリモはトルテッリ(ラビオリ)。これは隣りの席の老夫婦が
「これを食べるために来たのよ。」
とお店の人と話していたのが聞こえてきたので、すかさず私達も「どんな一品?」と質問して参加。追加でオーダー。
一見特に際立った特徴もないラビオリのように見えるけれど食べてみると納得。
生地、中身ともとても美味しかった。こういうスタンダードな一皿が美味しいお店というのは信頼できる。
その他にもセコンド(メインディッシュ)に頼んだのがグアンチャリーノのポルチーニソース掛け。
グアンチャリーノとは豚のほほ肉のこと。臭みも全くなくナイフで切った時にもう食感がすぐわかるほどに柔らかかった。
ポルチーニの三昧のランチで今回のグルメトリップもこうして大満足のものとなったのだった。
ポルチーニと松茸と美食家と
今回こうしてボルゴターロのポルチーニについて、見て、聞いて、食して、そして調べてみてふと実家の所有する山林を思い出した。
というのもこのボルゴターロのポルチーニも森の手入れがされずに放置された場所ではあまり生えなくなったそうだ。
様々な種類の木々が育つ、調和のとれた森にこそポルチーニが育つという。
私が子供の頃は父とよく松茸狩りに行ったものだけどもうここ十年以上は松茸は1本も生えなくなってしまった。
そういえば祖父が生きていたころは彼が手入れをしによく山へ入っていっていた。今思うとあの広大な敷地をよく一人で手入れしていたものだ。そんな祖父の地道な作業があってこそ松茸も育ったのだろう。
そしてそれ以外の大きな原因は近年の気候変動による赤松枯れ (松茸はその名の通り赤松の付近に生えるキノコ)。
一度生態系が変わってしまった森はそう簡単にはもとに戻らない。もう自分たちの山で採れた、あの採れたての松茸を味わうことは出来ない。
地表に顔を出す前の、落ち葉に隠れ、きゅっと傘の閉じた松茸を足の裏で感じて見つけ出す感覚。あの感覚ももう味わえないのかと思うとやはり寂しい。
ボルゴターロのポルチーニのサイトでこのボルゴターロのポルチーニ茸をこんな風に表現していた。
“prodotto spontaneo aiutato dall’uomo”.(人によって手助けされた自然の産物)
高いお金を払って高級食材を味わい、美食家を名乗る人は星の数ほどいる。
けれどその陰で様々な人々がその産物を守ろう、育てようと努力しているからこそ私達は美味しものを味わえるのだということを本当に理解している人はいったいどれほどいるのだろうか。
そんなことをふと思ったのだった。
2018年 9月