イタリアに住んでるのにイタリア国内、特にミラノから遠い南イタリアを旅することは意外にも少ない私達。
けれど2014年の夏の終わり、観光客も少なくなる9月に訪れたプーリア州とバジリカータ州を訪れた旅は南イタリアの素晴らしさに改めて気づくものとなった。
今回はそんな南イタリアを車で旅した時のことについて少し書いてみようと思う。
ポリニャーノ・ア・マーレ – 青い海と断崖絶壁に立つ街並み
9月に遅めの夏休みをとった私達はまずこのポリニャーノ・ア・マーレを旅のスタート地点とした。9月の半ばだったけれどまずその陽射しに
「あぁ、南イタリアへやってきた!」
と感じる。
照り付ける太陽はまだまだ夏真っ盛りだ。
予約していたホテルを見つけ、少し休憩した後に早速街歩きをしてみる。街自体は小さいので徒歩でのんびりと散策しても半日もあれば見どころは見て回れる。
とくに目的もなく歩いていると海側の道へと出た。
いい景色だ、潮風がなんとも心地いい。
海からそそり立つ断崖に建つ街並みが見渡せる。よく見るとその断崖にある洞窟のようなくぼみにレストランがあった。こんなところでディナーなどしたら素敵だろうなと思いながら見ている私。まだ夕食には早い時間だったので入口を探してメニューだけ見てみるとその値段に驚いた。後で知ったことだけれど、どうやら有名なレストランらしい。ちょっと私達には手が出ない高級店だったけれどロケーションは最高なので、旅の思い出づくりにはいいかもしれない。
- 洞窟レストランのホームページ:リストランテ・グロッタ・パラッツエーゼ
旧市街を散策し、夕暮れ時にホテルへ戻ってくると近くの広場で子供達が楽しそうにサッカーをしている。
時間は確か夜の9時前ごろだっただろうか。
しばらくすると、お母さん達が「夕飯が出来たよー!」と子供達を呼びに来ていた。
南イタリアの食事の時間は遅い、夜の9時からがやっと晩御飯なのだ。
その光景を見ていた同じく南イタリア出身の夫が
「まるで子供時代にタイムスリップしたみたいだ。」
と、呟いた。
ミラノのような都会では夏の夜9時はまだ明るいとは言え子供達だけで遊んでいる光景は残念ながらあまり見られない。でもここではゆったりとした時間の流れのなかでのびのびと子供達が遊んでいる。
南イタリアの良さというのは、こういうのんびりとした、どこか懐かしい空気にあるのかもしれない。
アルベロベッロ – 白い壁にトンガリ屋根のトゥルッリ
イタリアなんだけれどイタリアじゃないような不思議な街。
アルベロベッロ。
世界遺産にも登録されているトンガリ屋根をしたトゥルッリという家々が有名な街で世界中から観光客が訪れる。この独特な形の屋根を除けばその真っ白な壁の街並みはどこか以前に訪れたギリシャのサントリーニ島のような雰囲気だ。
照り付ける陽射しが白い壁に反射して眩しい。
アルベロベッロは大きく分けて1000以上のトゥルッリが集まり土産物店や観光客でにぎわうリオーネ・モンティ地区と実際に住民が生活しているアイア・ピッコラ地区に分けられる。どちらもどこを撮っても絵になるような場所だらけ。
9月の半ばということもあり観光客でごったがえすということもなくのんびりとしている。
しかし写真を撮りながら歩いると陽射しと暑さでまいってきた。おまけに娘がまだお腹にいたころだったので無理は厳禁と見つけた教会へ入ってすこし涼むことに。
このたまたま休憩に入ったサンタ・ルチア教会から偶然にもアルベロベッロの全景が見渡せた。場所は見どころの集まるモンティ地区を離れ、インディペンツァ通りを渡ったことろ。
こうやってその景色を眺めているとますますその可愛いらしい光景に魅了された。
「なんだか小人がひょこり出てきそう。」
そんな事を思いながらアルベロベッロを後にした。
マテーラ – 洞窟住居が作り出す世にも不思議な景色
マテーラにやってきたものの一向にあの洞窟住居が見当たらない。どうやら間違えて同じマテーラでも洞窟住居のあるサッシと呼ばれる歴史地区ではなくその周辺の新市街に着いてしまったようだ(ちなみにサッシとは “石、岩” という意味)。しかし道行く人に尋ねながらなんとかサッシへ。
下り坂のカーブを曲がると隠れていた洞窟住居群がいきなり姿を現した。
現代の住宅街から一瞬異次元へタイムスリップしたかのような感覚になる。
岩肌に張り付くように建てられた家々がどんよりとしたグレー色に光っていてどことなく失われた世界のような不思議な景色だ。
現在は洞窟住居をレストランやホテルなどに改築し、観光地として活気づいているが世界遺産に登録されるまではイタリアでも貧しい街として知られていた。この荒れた大地を見ればそれは容易に想像できる。もともと不毛の土地で作物が育たないため常に貧困に苦しめられていたそうだ。
なんというか、そういう一瞬の陰鬱とした雰囲気が青い空の下でも感じられた。
このサッシ地区は通常車両侵入禁止だけれど住民と宿泊客は例外として車のまま入れる。といっても当然入口にある駐車場まで。後は荷物を持って階段を上りホテルを探すしかないのはこの写真を見て想像いただけるだろう。
予約したのはもちろん洞窟を改造したホテル。到着するとまずいつものように従業員と軽くおしゃべり。するとレセプションのお姉さんが
「9月に来て大正解よ。8月は観光客も多いし何より暑すぎて街歩きなんかできやしないから。」 と笑う。
なるほど確かに。9月でもこの暑さだから7月、8月は相当なものだろう。
日中に見るととても不思議な街だけれど、夜になり街に明かりがつき始めるとその冷たさと言うか、どこか物悲しい雰囲気の街の表情が和らいだように感じた。
アルベロベッロの輝く太陽と明るい町並みとは対照的なマテーラの街。
どちらも南イタリアの重要観光スポットだけれど、その魅力は全く異なる。
明るく元気な太陽のような人と、どこか不思議で月のように微笑む女性。
二つの街を女性に例えるなら、さしずめ、そんなところだろうか。
あとがき
イタリアに住んでいると今回のような世界中から観光客が訪れるような所は “いつでも行ける” という理由でなかなか訪れる機会がなかったりする。
アルベロベッロにマテーラ。どちらもとても魅力のある素晴らしい場所だ。
けれどイタリアの魅力はそのようなある一定の街だけではない。
抜けるような青空にプーリアの赤い大地、そしてポリニャーノ・ア・マーレの生き生きと遊ぶ子供達。
そんな特別取り上げられることのない景色や光景が、実は旅の中で一番印象に残った、というのは旅好きの方ならきっとお分かりいただけることだろう。
そう、これだから旅はやめられない。