イタリアに暮らし始めてからは葡萄畑は至る所で見るのでさほど特別なものでは無くなった。
けれどフランス、アルザス地方の広大な葡萄畑を縫うように通る全長170㎞のアルザスワイン街道をドライブしているとシャッターを切らずにはいれなかった。
ドイツとの国境付近に位置するフランス北東部、アルザス地方の旅について少し書いてみようと思う。
夏の暑さも遠のき秋の訪れを感じる9月の終わり、ミラノから車で4時間ほどのアルザス地方へやってきた。
ところが到着するなりまず驚いたのが、その陽射しの強さ。
ホテルのマダムも
「ここ数日は夏が戻ってきたみたい。」
とショートパンツとキャミソール、といった格好で出迎えてくれた。
チェックインを済ませ、少し周辺を散歩しているとそのどこまでも続く葡萄畑に目を奪われる。
ここはシャンパーニュ地方に次いで有名なスパークリングワイン、クレマン・ダルザス(Cremant d’Alsace)に代表される優良ワインの一大生産地。
そう、今回の旅のテーマはずばり “美食旅”。
2時間ほどのんびりと散歩をした後ホテルに戻り、少し休んでいると今度はお腹が空いてきた。
さぁ、お楽しみの夕食はどこにしようかと夫と相談すると、
「リクヴィールに行ってみようか、街も小さいけれどかわいいところだよ。」
と彼からの提案。
我が家の旅はいつも夫が企画する。
地図を見ながらいろいろと調べるのが大好きなのだ。
リクヴィールでのディナー・シュークルット
なるほど、ドイツ国境付近の街だけにドイツ文化の影響を感じる街だ。
建物などは以前に訪れたドイツのローテンブルクによく似ている。(ローテンブルク旅行記はこちら)
でもやはりここはフランス。
ドイツよりも全体的に女性的な雰囲気で洗練されている感じがする。
街を歩きながらレストランを探していると郷土料理のシュークルットを食べれるお店を見つけた。
よし、今夜はここにしよう!
シュークルットとはキャベツを乳酸発酵させたものでソーセージなどと一緒に食べることが多い。
これが美味しかった!
脂がたっぷりのベーコンやソーセージにはシュークルットの酸味がよくあう。
よく煮込んであるのだろう、キャベツが口のなかでとろけるように柔らかかった。
ほんのりと感じる白ワインの香りもいい。
翌日にアルザス地方の特産品であるマンステールチーズ(fromage Munster)を買おうと入った食材店のマダムに聞いてみると、
ビールで煮込んだり、ワインで煮込んだりと各家庭によっていろいろなレシピがあるようだ。
バールでのワイン祭り
ワイン祭りが開かれていると聞いてやってきたバール(Barr)。
ところが歩き回ってもいろいろな屋台は出ているものの、一向にワインのイベントが見当たらない。
どうもメインは私達が来た土曜日ではなく、その翌日の日曜日らしい。
それでも屋台でいろいろつまみながらの街歩きは楽しいものだ。
夫とは反対に旅の前にあまり下調べをしない私でも薄焼きのピッツァのようなタルト・フランベやクグロフがこの地方の名物というのはすぐにわかった。至る所で見たからだ。
しばらく散策した後、この日にワイン祭りと同時に開かれていたマルシェでイタリアでは見かけない野菜などを買い込みバールを後にした。
リボヴィエ・コウノトリの暮らす街
前日の照り付ける太陽とうって変わってこの日はグレーの空。
街を歩くとすぐに人々が立ち止まって何やら上空を眺めているのに気が付いた。
コウノトリの巣だ。
ハンガリーを旅した時もよく大きなコウノトリの巣を目にしたけれど、ここでも街のシンボルのようだ。
お土産屋さんでもコウノトリのグッズが目立つところに置かれている。
散策途中で雨が降ってきたので、雨宿りを兼ねてメインの通りから少し奥へ入ったところで見つけたエノテカ(イタリア語でワインショップ、フランス語ではなんと言うのだろう?)へ。
ミラノに持って帰るアルザスワインを探していたのでここでお土産探しとしよう。
興味津々に歩き回る二歳の娘がワインボトルを割らないかハラハラしてる私を横目に夫は店の主といろいろと相談しながらワイン選び。
そしてやっと選んだ3本はクレマン・ダルザス(Cremant d’Alsace), ピノグリ( Pinot gris), ゲヴェルストラミネル( Gewurztraminer)。
「箱にいれようか?」
と聞かれたので
「お願いします。」
と頼むとこんな可愛らしい箱に入れてくれた。
アルザス地方の特徴でもある木組みの家の箱。
注意して見ながら歩くとアルザス全体でワイン用にこのデザインの箱を使っているようだ。
こういうセンスはさすがだな、とフランスを旅する度に思う。
全体的なイメージづくりの上手さというか、ブランディングというか。とにかく芸が細かい。
アルザスにて 最高にグルメな夜
二つの街を歩き回り、疲れも空腹も同時にやってきたところでこの日の夜はホテルのマダムが勧めてくれたレストランに行ってみることにした。
カジュアルな雰囲気だけれど白で統一されたインテリがシックなレストランへやってくると早速
「アペリティフは何がいい?」
とサービスの人。
ここはやはりクレマン・ダルザスで乾杯だろう、と私達。
ニンニクがたっぷりきいたアルザス風エスカルゴに始まりアルザスと言えばのフォアグラ!
私はフォアグラが苦手だけれどここで食べたものは変な臭みというかフォアグラ特融のにおいが全くなくとても美味しかった。
メニューに”自家製フォアグラ”と書いてあったけれどシェフが自ら調理するのだろうか。通常はパンに塗って食べたりするものだけれど、ここでは軽くトーストされたクグロフが出てきた。
クグロフの甘い香りとバターのように濃厚なフォアグラにピノブラン(Pinot blanc)ワインがすすむ。
ふと気が付くと隣りに座っていた娘がこっそりと私のお皿に手を伸ばしフォアグラを口いっぱいにほおばっている。
去年の美食旅で訪れたイタリアのピエモンテでは美しくスライスされた白トリュフをまるでスナック菓子かのように食べていたし、まったく子供というのは恐ろしい。
メインまで食べ終え、まだほんの少しお腹に余裕があったのでここはフランス風に、とチーズの盛り合わせをシメにオーダー。
イタリアではスターターとしてサーブされるがフランスではシメにチーズ。
というのはステレオタイプなのだろうか、チーズをオーダーしているのは私達だけだったようだ。
小さな町の住宅街でおまけに週末ということもあり、ほとんどが地元客のようだった。
一日中お昼寝もせずに動き回っていた娘が隣りでコクリ、コクリとしだしたので抱っこをするとあっという間に眠りこけてしまった。
その様子を見ていた隣りの老夫婦がこちらを向いて微笑んでいる。
アルザスで最高に美味しい夜だった。
コルマール アルザスの小ベニス
アルザス滞在3日目の朝、ぶとう畑に囲まれたホテルの周辺を再度散策した後、ミラノへの帰路の途中にあるコルマールへ立ち寄った。
アルザスでは一番大きな街だけに観光客の数も多い。興味をそそるお店もいっぱいだ。
途中で見つけた常設の市場に入ってみたものの残念ながら日曜日でほとんどのお店は閉まっていた。
途中から陽が出てくると街を飾る色とりどりの花々、そしてカラフルな家々が青い空に映え一気に可愛いらしさが倍増した。
小ベニスと言われる所以の街を流れる運河がコルマール独特の雰囲気を作っている。
アルザス2泊3日の旅をこの可愛いコルマールで締めくくり、私達はミラノへの帰路へついた。
街同士が近くにあり、またそれぞれが小さく散策しやすいので子供連れでものんびりと楽しめるアルザス地方。
美味しいワインに美味しい料理、いつかまた訪れたいと思える場所だった。
アルザス地方 旅行記
2017年9月